ありのままの自分で生きる

LGBT+ に対する根強い差別とインクルージョンの拡大についての考察

アメリカに居住するLGBT+の社会人たちは、職場での根強い差別ーそしてより幅広いインクルージョンーを経験している

レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー(LGBT)のコミュニティーを構成するアイデンティティーは、この4文字が表す典型的な類型にとどまらず、多岐にわたる。このコミュニティーは実に多様であるため、最近ではさまざまなアイデンティティー・グループを包摂する意味で、プラス記号‘+’が加えられる(LGBT+)。このコミュニティーは性的指向(セクシュアル・オリエンテーション)や性自認(ジェンダー・アイデンティティー)についてさまざまな捉え方や分類を受け入れ続けており、用語もそれに伴って進化している。

LGBT+個人の生活、家族、経験はそれぞれに異なり、また、LGBT+コミュニティー内の各グループが体験してきた苦難もそれぞれに異なる。そうした中で、LGBT+コミュニティーの結びつきを支えているものは、アイデンティティーの共有よりも、周囲からの理解と平等を希求するという意思の共有である。

いくつかの国では、LGBT+はいまだに犯罪として扱われ、コミュニティーの人々は自らのアイデンティティーを隠して生きることを余儀なくされている。一方で、LGBT+への支持や教育が、大きく前進した国や地域もある。同性婚や養子縁組の合法化から、平等を憲法へ明記するまで、現在では150カ国以上がLGBT+の人々に対して、何らかの形で法的な保護を与えるようになった。

レズビアン、ゲイ、バイセクシュアルの人の45%が、「雇用者はLGBの性的指向を持つ人を差別している」と答えた。

「社会は同性同士の関係を受け入れるべきだ」と考える人の割合が、世界的に大きく増加している。PewResearch(ピュー研究所)によると、2002年から2019年までの期間で、LGBT+に肯定的な考えを持つ人の比率は2桁も増加している。例えば、南アフリカと韓国では、2014年から約20%増加し、インドでは22%上昇した。

こうした社会意識の変化に伴い、LGBT+であることを公表する人の数は増えている。ギャラップ社の2月のレポートによると、LGBT+を自認する米国人は、全人口の5.6%で過去最高を記録し、2012年比で見ると60%も増加した。その過半数(56.4%)はバイセクシュアルであり、11.3%がトランスジェンダーであった。

米最高裁判所は「ゲイ、レズビアン、バイセクシュアル、トランスジェンダーの人々は米国公民権法に基づき職場での差別から守られなければならない」という画期的な判決を下したが、そうした目覚ましい進展が見られる一方で、多くの新しい法規制がLGBT+の人々の権利をさらなる危機に追い込んでいる。ヒューマン・ライツ・キャンペーン(Human Rights Campaign)は、米国における反LGBT+法にとって、2021年は特別な年になり、トランスジェンダーの権利を制限すべきかどうかが、世論を二分する争点になると主張している。2021年5月までに、全米で250以上の法案が州議会に提案され、18の法案が可決済みか、知事の署名待ちの状態にある。

個人の物語を探る

IBM Institute for Business Value(IBV)は、LGBT+コミュニティーのアイデンティティーと経験を知るために、Oxford Economicsの協力を得て、米国に居住する6,000名以上の社会人を対象に、2020年8月から2021年1月にかけて調査を行った。調査対象の6,000名には、ゲイまたはレズビアン(73%)、もしくはバイセクシュアル(27%)を自認する700名が含まれる。

調査は、無作為、匿名、二重盲検で行われた。設問項目に選択肢の1つとしてノンバイナリーがあったにもかかわらず、ノンバイナリーを自認した回答者はいなかった。従って、以下のデータは方向性としては有用であるが、LGBT+コミュニティーを構成する1つの小集団を含まない、いわば重要な母集団を欠いた調査であり、こうした文脈を考慮に入れた上で分析と適用を行うべきである。

この調査の目的は、ジェンダー・アイデンティティーの微妙な違いに着目してつまびらかにすることではなく、LGBT+の人々の実体験を包括的に明らかにすることであった。この多様性に富むコミュニティーに属する人々から有益な洞察を得るために、IBVはOut & EqualおよびWorkplace Prideと共同で、2021年4月13日と14日に「Global LGBT+ Innovation Jam」を開催した。

ジャム参加者の87%は、 自分の会社・組織はLGBT+のインクルージョンと帰属について、 積極的に公表すべきだと考えている。

このジャムでは、2,000名以上のビジネス界のリーダーや、各分野の専門家およびリーダー(LGBT+の人々や、その支援者)がオンライン上で集結し、LGBT+コミュニティー特有のニーズやアイデンティティーについて、あるいはインクルージョンと帰属意識を高めるための取り組みについて話し合った。ジャムの参加者のアイデンティティーはさまざまで、その内訳はゲイまたはレズビアンが43%、非LGBT+は33%、バイセクシュアル9%、クィア8%、ノンバイナリー5.6%だった。ディスカッションのトピックは、テクノロジーを使って偏見をなくす方法から、企業がLGBT+の人々のメンタルヘルスをサポートする方法まで多岐にわたった。

本レポートはアンケート調査とジャムの結果を要約したもので、個人的な経験や、職場や社会で直面する障害、それらを軽減するために企業・組織ができることについて、LGBT+コミュニティーから深い洞察を引き出した。以下では調査の対象者(LGB)と、ジャムの参加者およびより広範なコミュニティー(LGBT+)を明確に区別するため、異なる頭字語を使用する。

LBGT+インクルージョンの未来

IBVが実施したLGBの調査では、上級経営層、上級および一般管理職、起業家など、さまざまな職種のレズビアン、ゲイおよびバイセクシュアルの人々の、個人的な経験を尋ねた。また現在進行形の差別や成功経験と、異なるアイデンティティーがどのように交差するのかをつまびらかにした。

不平等な結果: LGBT+の有色人種の半数以上が、自分と同じアイデンティティーの人が成功する確率は低いと感じている。

一般的な米国人と比較して、自分と同じ3つの特性(人種、ジェンダー、性的指向)をすべて持つ集団が成功する確率は高いですか。それとも低いですか。 

全体的に見ると、LGBの人々は米国社会の中で、公平な扱いを受けていないと感じていることがわかった。「自分と同じ性的指向を有する人に対する差別が、少なくともある程度は存在する」と考えている人は、全体の92%もいた。また5人に4人は、「性的指向を理由とする差別を受けたことがある」と答えた。

LGBの人の半数近く(45%)が、雇用者はLGBの性的指向を持つ人を差別していると答えた。LGB以外の人も、ほぼ同じ割合(43%)で、雇用者がLGBの人を差別していると考えていた。最近の社会的意識の改善にもかかわらず、差別が根強く残るこうした現状を考えると、調査対象としたLGBの63%が、「自分と同じ性的指向の人は一般的米国人と比較して、成功しづらい」と考えるのも当然だろう。今回の調査結果は、企業上層部へのLGBの登用の実態からも、この結論を裏付けている。米国内の企業の上級経営層で、LGBであることを認めている人は、わずか7%しかいなかったのである。

LGBの約3人に2人は、自身のアイデンティティーのために不利益を被っていると述べている。

ジャム参加者から得られた洞察はこの状況を裏付けている。参加者が述べた話は真に迫るもので、中には心痛むものもあった。ジャム参加者は集団として、ありのままの自分で生きたいという切なる願いと、将来世代のためにも今こそ個人の安全と成功とを確立しておく必要があることを強く訴えた。架け橋の役割を果たし、門戸を開くにはどうすればよいか話し合い、ミレニアム世代やZ世代が労働力に占める比率が高まるにつれて生じる世代交代や、リーダーはどう適応すべきかについて探った。

IBVのLGB調査とLGBT+ジャムの洞察から導き出された、組織がLGBT+のダイバーシティーを抱き入れ、進化するための3つの主要なアクションは、次のとおりである。

1.可視性、インクルージョンを高め、本来の自分を取り戻す
2.インターセクショナリティー(intersectionality)* を抱き入れる
3.企業の支援と個人のアライシップを拡大する

個人の特性にかかわらず、全ての人々にとって安全で、支援のある職場環境を作り出すために組織ができることとは何か、全文をお読みください。

*インターセクショナリティー(intersectionality):人種、ジェンダー、性的指向、年齢、能力など個人が持つ複数のアイデンティティーの重なり方に応じて変わる、その個人が受けるさまざまな不利益や利益を把握しようとする考え方


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著者について

Anthony Marshall

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, Senior Research Director, Thought Leadership, IBM Institute for Business Value


Ella Slade

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, Global LGBT+ Leader, Diversity and Inclusion, IBM


Deena Fidas

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, Managing Director/Chief Program and Partnerships Officer, Out & Equal Workplace Advocates


Cindy Anderson

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, Global Executive for Engagement and Eminence, IBM Institute for Business Value


川田 篤(日本語翻訳監修)

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, 日本アイ・ビー・エム株式会社LGBT+ & アライ・コミュニティー リーダーパートナー・アライアンス事業本部 部長

発行日 2021年9月2日

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