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職場におけるアジア系アメリカ人のインクルージョン

根強い偏見と変わりゆく課題を探る

根強い偏見と変わりゆく課題、そして成功への鍵を探る

2021年初頭、アジア系アメリカ人―時として「モデル・マイノリティー」とあしらわれてきた人々―は反アジア感情の新たな波にさらされた。コロナ禍が人々の日常生活を脅かす中、ヘイト・スピーチや暴力の矛先がアジア系アメリカ人に向けられたのである。新型コロナウイルス感染症を「中国風邪」(China flu)と呼ぶなどの人種差別発言がなされ、2021年3月にはアトランタで銃乱射事件が発生するといった事態にまで発展している。

IBM Institute for Business Value(IBV)の最新の調査によると、アジア系アメリカ人の経営層は職場で非常に多くの試練や差別に直面していることがわかった。仕事で困難を抱えるアジア系アメリカ人の割合は、白人の同僚と比較してもはるかに多い。

このテーマを探るため、IBVは、アジア系アメリカ人のうち、企業のビジネス・リーダーである上級経営層や上級管理職、また企業内の部門のリーダーを担う一般管理職、および自ら事業を興した起業家など 1,455人を対象に、2020年8月から2021年1月にかけて調査を行った。回答者は、米国内の幅広い業界を代表する人々である。

回答者の10人中8人が「民族性または人種に基づく差別を経験したことがある」と答えている。

コロナ禍において加速し、ここ数カ月でさらにエスカレートした米国社会でのアジア人ヘイトには、ビジネス界のアジア系アメリカ人やその支持者たちも抗議の声を上げている。例えば、さまざまな分野で活躍するアジア系アメリカ人のビジネス・リーダーたちがWebサイト「StandWithAsianAmericans.com」を立ち上げ、The Wall Street Journal にも全面広告を掲載した。これらを通し、ヘイト・クライムの150%にも及ぶ増加によりアジア系コミュニティーが感じている恐怖、そして暴力への対抗を訴えたのである。

またその3週間後には、米国上院で人種、出身国、およびその他の特徴に対する偏見を認めないとする法案が賛成94、反対1で可決された。この法案では、2021年2月28日までの1年弱の間に起きた差別やヘイト・クライムに関連する事件がおよそ3,800件挙げられている。5月18日に下院で可決された同法案は、5月20日にバイデン大統領によって署名が行われ成立した。

このような活動は、暴力行為がとりわけアジア系女性に向けられているという事実を浮かび上がらせた。そして、昨今の制度的偏見(特定の人種が不利になる仕組みが法律、社会および企業などの組織に組み込まれていること)や人種差別の風潮は、アフリカ系住民やラテンアメリカ系住民、先住民、そしてLGBT+のコミュニティーにも影響を及ぼしているということもわかっている。企業には、ビジネスの側面から変革のために声を上げ、そうした人々のアライ(協力者)となることが強く求められている。

成功のパターン、そして偏見

アジア系の人々が米国のビジネス界で成功を収めていることは、Yahoo創業者のジェリー・ヤン(Jerry Yang)氏、YouTube共同創業者のスティーブ・チェン(Steven Chen)氏、Microsoft最高経営責任者のサティア・ナデラ(Satya Nadella)氏、Alphabetのサンダー・ピチャイ(Sundar Pichai)氏、IBMのアービンド・クリシュナ(Arvind Krishna)といった企業家たちが証明している。しかし、こうした一部の人々のサクセス・ストーリーが、アジア人が依然として受ける差別的待遇を覆い隠してしまっている。

IBVによる最新の調査では、回答者の10人中8人が「民族性または人種に基づく差別を経験したことがある」と答えている。また全回答者の半数近くが、特に職場において差別的な扱いを受けたと答えた。このような回答から、アジア系アメリカ人はたとえキャリアアップに成功しても、なお厳しい偏見にさらされていることが明らかとなった。事実、60%を超える回答者が「自身の民族性または人種により、成功するには人一倍の努力が必要だ」と答えている。

これを裏付けるように、アジア系アメリカ人の専門職・プロフェッショナルの団体であるアセンド(Ascend)が行った調査でも同様の結果が出ている。この調査は、全業界を対象としたEEOC(米国雇用機会均等委員会)の最新データ(2018年)を分析したものである。これによると、高度な専門性を持つにもかかわらず、経営層に昇進することができていないという状況はすべての民族集団で発生していることがわかった。そして、その中でもアジア系は、最も採用されやすい一方で、最も経営層に昇進する割合が低いということが明らかとなっている。

研修における格差: OJTでの学習機会がより少ないアジア系アメリカ人従業員

そして、IBVの調査によると、アジア系アメリカ人のプロフェッショナルが重視している取り組みは、以下のように、将来的に企業にとって有益であるものが多かった。それにもかかわらず、こうしたハードルは今も根強く残っているのである。
 

  • ポジティブな変化を生み出す。IBVの調査において、アジア系アメリカ人が「成功の定義」として最も多く挙げた回答である。社会的影響やステークホルダー資本主義への注目が高まる中、この回答は成功を収めているブランドや事業が重要視していることとも合致する。「経済面での安定」や「権力や影響力の増大」といった、より利己的な回答をしのぐ結果となった。
  • 継続的に学習する。アジア系アメリカ人の間で、「人生の成功に必要な秘訣」として最も多く挙げられた回答である。変化の激しい昨今の世界では、適応力が求められるため、従業員とリーダーの双方にとっておそらく最も大切な観点だろう。
  • 効果的にコミュニケーションをとる。「自分自身の個人的な成功だけでなく、米国で一般に成功するために必要なスキル」として、アジア系アメリカ人のプロフェッショナルが最も多く挙げた回答である。これは、今までの歴史の中で、アジア系の人々がリーダーとなる可能性を狭めてきた原因とされる、「STEM(科学・技術・工学・数学)分野に偏って優れている」という誤解と「控えめな態度」というステレオタイプを克服するのに役立つ。

本レポートでは、まずアジア系アメリカ人の体験に焦点を当てた後、アジア系アメリカ人のプロフェッショナルを対象に行った調査について詳しく紹介する。そこでは、社会の成長とともに、現在の取り組みによって、長年の偏見や昨今の新たな課題が解消される兆しが見られた。もちろん、そのような変化を推進するために、企業はもとより、私たち全員ができることはいくらでもある。


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著者について

Cindy Anderson

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, Global Executive for Engagement and Eminence, IBM Institute for Business Value


Inhi Cho Suh

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, General Manager Strategic Partnerships, IBM Cloud and Cognitive Software


Bernie Hoecker

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, General Manager Americas Kyndryl PMO Leader, Global Technology Services

発行日 2021年11月2日

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